自己破産のきほん

債務整理
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はじめに

自己破産って、すごくネガティブなイメージがあります。

自己破産という言葉は、なにかおどろおどろしい響きをもっています。
しかし、その中身をよく理解すれば、借金返済に悩まされる生活から抜け出すためのヒントが見つかります。

破産は○○である

再チャレンジの制度

破産は、借金を返せなかったことへの「罰ゲーム」ではなく、自らの意思で生活を立て直すための「再チャレンジ」の制度です。

人生の再スタート(新たなはじまり)

破産をすることによるデメリットは、その圧倒的なメリットに比較して、ごく限られたものです。
しっかりと破産制度の本質を理解した上で、破産手続を利用することにより、一度しかない人生の「再スタート」を切ることができます。

債権者に対し責任を果たすための制度

破産手続を行うことは、決して「逃げ」ではありません。債権者に対する責任を果たすとともに、ご自身の未来に真剣に向き合っていただく機会でもあります。

自己破産とは

破産のきほん

自己破産するとは、要するにどういうことですか?

債権者のための制度

破産は、第一に、債権者のための制度です。

お金を人に貸したりして、その返済など、お金の支払を要求している人や会社のことを債権者といいます。
銀行や消費者金融会社などです。

反対に、借金の返済などの支払義務(債務)を負う人や会社のことを、債務者といいます。
あなたがいま借金でお困りであれば、あなたは債務者の立場ということになります。

債務者が債務の支払ができなくなったときに、債務者の財産をお金にかえて、債権者たちで公平に分けましょうという仕組み。

これが破産です。
基本はとてもシンプルです。

裁判所で行う手続

破産手続は、裁判所で行う手続です。
債権者・債務者のいずれからも、裁判所に対し、破産手続の開始を申し立てることができます。
債務者(つまり借金を支払えなくなった人や会社)が自分から申し立てる場合の破産手続を、自己破産といいます。

破産が、債務者の財産をお金にかえて、債権者たちで公平に分けるという仕組みであることから、

  • 債務者がきちんと自分の財産をオープンにする(財産隠しをしたり、嘘をついたりしない)
  • 債権者同士がフェアに扱われる(力が強い者や債務者と関係が深い者が有利にならない)

ということが、破産における最も重要なルールと考えられます。

個人の破産

会社の場合

会社が債務者として破産すると、会社の全ての財産が債権者に分配されます。
会社は財産がなくなれば存続することはできません。
そのため、破産手続の終了とともに、会社の法人格は消滅します。
会社が破産すれば、その会社は消えてなくなるわけです。

個人の場合

一方、あなたのような個人(=自然人)の場合、当然ですが、破産をした後も、消滅せず、生き続けます。
破産をしても、あなたの生活、人生は続いていきます。
ですから、破産をすることによって、その後の生活を送ることができなくなるような仕組みにはなっていません。
※憲法により、国は、すべての人に対して「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障しなくてはなりません。

個人が破産する場合、生活を維持するために最低限必要な財産は手元に残すことができます

生活を維持するために最低限必要な財産を超える部分だけをお金にかえ、債権者に分配することになります。
ということは、はじめから生活を維持するための最低限の財産より少ない財産しか持っていない人が破産する場合、破産手続により手放さなければならない財産はありません。
多くの方が、これに当てはまります。
つまり、破産をしても、財産を処分されることのないケースは多くあります。

免責

自己破産をすると、私の借金はどうなるのですか?

さて、破産手続の中で、債務者の財産をお金にかえて債権者に分配しても、債務がいくらか残るのが通常です。
債務を完済できるだけの金がなくて破産したわけですから、ある意味当然です。

その残った債務については、破産手続とは別に、免責手続において、免責(支払義務の免除)を許可するかどうかの判断が行われます。破産手続とは、一応別個の手続です。

免責手続は、破産手続とは一応別個の手続ですが、必ず破産手続とセットで、破産手続の終了後に行われます。
破産手続に協力したいわば見返りのような形として、免責という特典を与えるかどうかを判断するのが、免責手続です。

免責に関しては、破産手続にしっかり協力すれば、よほどのことがない限り、免責が許可されると考えていただいて構いません。

反対に、破産手続に協力しない(期日出席しない等)、意図的な財産隠しをする、質問に対して嘘をつく、債権者を不公平に扱うなど、破産手続の趣旨・目的に反するようなことをしてしまうと、免責を得ることが難しくなっていきます。

自己破産のメリット

免責(借金などの支払義務がなくなる)

自己破産によって得られる最大のメリットは、借金などの債務の免責を得られることです。
免責とは、借金などの債務の支払義務が免除されることです。
任意整理や個人再生など他の債務整理の手段では得ることのできない、自己破産の大きなメリットです。

借金などの支払義務がなくなることで、毎月の返済のお金をどう工面するか、頭を悩ませ続ける日常から解放されます。
そのことではじめて、未来を展望し、これからの生活をどう立て直していくか、人生の再スタートラインに立つことが可能になります。

債権者からの取り立てがなくなる。

債務整理を開始するに当たって、弁護士から債権者に対して「債務整理を受任した」という通知(受任通知)を行います。
これ以降、金融機関や債権回収会社からの直接の取立て行為は法律により禁止されます。
弁護士が介入することにより、通常は金融機関以外の債権者からの取立ても止まります。

破産手続が開始されると、債権者による新たな訴訟の提起は禁止されます。
また、すでに提起されている訴訟は中断します。

このように取立てを受ける心配がなくなることで、落ち着いた気持ちで、目の前の課題にしっかり取り組むことができるようになります。

強制執行手続(給与差押えなど)が停止・取消しとなる

言うまでもなく、給与の差押えを受けた状況が続けば、生活の立て直しはままなりません。

破産手続が開始されると、給与の差押えなど、新たな強制執行が禁止されます。
また、すでになされている強制執行は中止・取消しとなります。

短期での生活の立て直しが可能

任意整理や個人再生といった、自己破産以外の債務整理の手段をとった場合、いずれも最終的な解決まで、数年(通常3~5年)を要します。
任意整理や個人再生は、減額された債務を数年かけて返済していくという手続だからです。

これに対し、自己破産の場合、その多くが、数ヶ月~1年程度で手続が終了します。
人生の再スタートを考えた場合、このように早期に次のステップへ進むことのできる自己破産には大きなメリットがあります。

自己破産のデメリットとされるもの

でも、自己破産にはいろいろなデメリットがあると聞くんですが・・・

自己破産によるデメリットとして言われる代表的なものは、次のようなものです。

財産が処分される

破産手続は、債務者の財産をお金にかえて債権者に分配するためのものですから、原則として、保有している財産は手放さなければなりません。

しかし、生活に必要な最低限の財産(「自由財産」といいます。)については、処分されず、手元に残すことができます

この自由財産の範囲ですが、一般の方の想像よりも、広くとられています。
たとえば、

  • 99万円以下の現金
  • 自動車(年式が古い中古車であるなどの理由で一定以上の価値がなく、かつ、生活に必要と認められたもの)

などは、自由財産として手元に残すことができます。

したがって、そもそも、自由財産を超えるような財産は持っていない人(自己破産を考える方のうちの多くがあてはまります。)にとって、この点はデメリットになりません。

ブラックリストに登録される

債務整理を行うと、いずれの手続を選択しようと、信用情報機関のデータベースに事故情報として登録されます。
いわゆる「ブラックリスト」です。

ブラックリストに登録されている間は、新たにお金を借りたりローンを組んだりすることが難しくなります。
しかし、ブラックリストへの登録は自己破産に限った話ではなく、債務整理に共通のことであり、また、そもそも返済が滞った時点で、ブラックリストに登録されていると考えられます。

自己破産をする目的は、借金に頼ることのない安定した生活を取り戻すことです。
したがって、あまりこの点をデメリットとして意識すべきではないと考えます。

自己破産したことが官報に公告される

自己破産をすると、手続上、氏名などが官報に掲載されます。
官報とは、法令・告示・予算・人事など、政府が一般国民に知らせる必要のある事項を編集して毎日刊行する文書です。
本当に毎日発行されていますし、さまざまな事項が掲載されています。
破産手続は、債権者のための手続であり、全ての債権者に公平に破産手続に参加する機会を与える必要があるため、破産した人の氏名などが官報に掲載されるのです。

さて、皆さんご自身は「官報」というものをこれまで読んだことはあるでしょうか。
読んだことがある人はほとんどいないはずです。
日頃から官報に目を通しているような人となると、まずいないと思います。

したがって、周りの人に、官報を通して破産の事実を知られてしまうということは、通常起こりません。
この点についても、あまり心配しすぎる必要はありません。

公的資格の制限

裁判所が自己破産の手続開始を決定すると、一定の公的資格について、資格の利用が制限されます。
警備員、生命保険の外交員などが代表的です。

特に仕事で資格を利用していないという人にとっては、この点に関する自己破産のデメリットはありません。

また、この資格制限は、免責許可決定が確定すればなくなります。
裁判所での破産手続は、その多くが数か月で終了しますので、制限を受けるのはその期間だけということになります。

手続上の制限

破産手続中は、

  • 住所移転が制限(裁判所の許可が必要となる)される。
  • 郵便物が破産管財人に転送されて内容のチェックを受ける。

などの一定の制限があります。
しかし、破産手続を進行するために必要なことであり、デメリットと呼べるほどのものではありません。

また、同時廃止(債務者にはお金にかえられるような財産がないことが明白であり、また、特につっこんで詳しく調査する必要もないと裁判所が認めた場合に、破産手続が開始と同時に終了すること)の場合は、破産手続が即時終了するので、こうした破産手続上の制限を受けることがありません。

再度の自己破産時に免責が受けにくくなる

免責の許可を受けてから7年以内に再び破産申立てをした場合、再度の免責が認められにくくなります。
しかし、何回も破産しようと思っている人はいないと思いますので、これもデメリットと呼べるものではありません。

まとめ

このように、自己破産には多大なメリットがある一方で、デメリットについては、決定的と呼べるようなものはありません
そのため、債務整理を希望されるご相談者に対しては、「どうしても任意整理や個人再生でないと困る」という人以外は、基本的に自己破産をおすすめしています。

ただし、実際の債務の総額がいくらなのか、正確なことは調査しないと分からない場合があります。
たとえば、高金利で借りていたため、計算し直すと借金が大幅に減ったり、むしろ過払い金が出ている場合があります。
債務がすでに消滅時効となっており支払義務がなくなっている場合などもあります。

どのような方法で債務整理をするのが適切なのかを選択するには、まずは弁護士に相談し、現状を正確に把握することが必要不可欠です

自己破産についての誤解

破産をすると身ぐるみ剥がされるのですか

破産は罰ではなく、再チャレンジのための制度です。
生活維持に必要な一定の財産は手元に残すことができます。

破産した後も借金取りが執拗に取り立てに来たりしませんか

既にご説明したように、破産手続を取ることで、取立ては禁止されます。
平穏な生活を取り戻すことができます。

破産手続をすると戸籍や住民票に記載されますか

されません。

選挙権は制限されますか

されません。

仕事をクビになりませんか

万が一、自己破産をしたことが会社に知られたとしても、それを理由に解雇することはできません。
違法な解雇、すなわち「不当解雇」であり、無効です。
これまで私が取り扱った案件で、自己破産を理由に解雇されたという事例は1件もありません。

そもそも会社に破産の事実を知られてしまうという可能性は低いものです。
会社から借入れをしている(すなわち会社が債権者)といった場合を除き、破産手続の中で、勤務先の会社に対して、個別の通知を行うということは基本的にありません。
債務者からの自己申告がなければ、わざわざ官報をチェックするでもしない限り、会社が破産について知る機会はほとんどありません。
そして、そのようなことをしている会社は皆無でしょう。

なお、債権者が給与の差押え手続をした場合、会社は従業員が借金などの滞納をしている事実を知ることになりますが、これは返済を滞納したことによって生じたことです。
破産手続を取ったためではありません。

年金や生活保護が打ち切られることはありますか

ありません。

家族に迷惑をかけませんか

あなたが破産したからといって、家族が連帯保証人や連帯債務者になっていない限り、家族に対して債権者からの取り立てが来るということはありません。
あなたが自宅建物や自動車を保有しており、破産によりそれを手放さなければならなくなれば、同居の家族も間接的に影響は受けます。
しかし、破産により経済状態を立て直すことは、家族にとっても総合的にプラスになるはずです。

なお、自己破産をすることについて、家族が反対しているというのはよくあるケースです。
ただ、その反対の理由は、自己破産に関するさまざまな誤解に基づくものであることがほとんどです。

自己破産を行うために、家族の協力は不可欠ではありません。
とはいえ、家族の理解や協力があったほうが、生活の立て直しがよりスムーズになるでしょう。
まずは家族と一緒に法律事務所に相談に行ってみるというのも、家族の理解を得るひとつの方法です。

子どもの就職や奨学金に影響はありますか

子どもの就職への影響を心配する必要はありません。
まず、子どもが就職するに当たって、履歴書等で親の破産歴を申告する必要はありません。
また、一般の企業は信用情報機関に加盟できませんし、わざわざ過去の官報を調べて応募者の親の身辺を調べたりすることも考えられません。

奨学金は、学生自身が契約者になるのが通常です。
親が破産して間もない場合、その親自身は連帯保証人になれない可能性が高くなります。
しかし、親類に連帯保証人をお願いしたり、保証会社を利用するなどして、ある程度カバー可能です。
そもそも支払を長期滞納していればブラックリストに載りますから、その場合、連帯保証人になれないのは同じです。
したがって、この点も破産をためらう理由にはなりにくいと考えます。

海外旅行に行けなくなりませんか

破産手続中は、住所の移転や長期旅行については、一定の手続をとることが必要となります。
また、裁判所で開かれる債権者集会にも出席する必要があります。
しかし、旅行ができなくなるわけではありませんし、破産手続(大部分のケースで数か月)が終われば、制限なく旅行に行くことができます。

経歴に傷がつきませんか

破産手続は単に民事上の手続を利用したという話ですから、賞罰欄に書くようなものではなく、破産歴があることを履歴書に書く必要はありません。

破産をするのは債権者に申し訳ない

このような感覚は間違いとまでは言えません。ただ、債務の内容にもよりますが、必要以上に債権者に対して負い目を感じる必要はないと思われます。

大手の消費者金融や銀行など、個人破産の際の債権者の多くは、一定の規模を有しており、お金を貸し付ける際、回収が不能となるリスクを十分に見積もった上で、利率を設定し、貸し付けを行っています。
そうしたリスクを取ることで、利息収入を得ているわけです。

あなた1人が破産するかしないかで、その会社の経営が大きな影響を受けるわけではありません。
むしろ、債務を支払えなくなったのであれば、あなたが自己破産という法的手続を行うことで、債権者として明確な会計処理をすることが可能になります。
返済のないまま、ずるずると先延ばしされるよりも、手続的にずっと明確であり、債権者にも一定のメリットがあります。

さいごに

借りたお金をしっかり返済するというのは、大切な美徳ですが、まずはご自身のこれからの人生を一番大切にしてください。
弁護士に相談して、現状をしっかり把握し、適切な判断をしていただければと思います。

自分が破産手続をとるべきかどうか、一度弁護士に相談してみようと思います。