不動産の「放棄」?

あるテキストの中に「単独所有の不動産について、その所有権者が所有権を放棄した・・・場合、その権利は国に帰属します(民法239条2項・・・)」との記載を見かけました。

「不動産の所有権の放棄についての条文なんてあったっけ?(共有についての条文はあるけど(民法255条))」と私は少し引っかかりました。

早速、六法で民法239条2項を引いてみました。(実務家の第一歩は条文を引くことです。)

「所有者のない不動産は、国庫に帰属する。」(民法239条2項)
どこにも「放棄」については書いてありません。

世間では、不要な土地(山林など)や空き家を所有していて、固定資産税(や維持費)だけがかかっている状態であり、何とか手放したいのだけども、放棄したくてもできない!ということが大問題になっています。

「土地を放棄できる制度、政府が検討 要件・引受先議論へ」(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASL5X4SK0L5XULFA014.html
「土地所有権の放棄制度検討 政府、相続登記を義務化」(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31241990R00C18A6MM0000/

こんな記事がでるということは、「土地を放棄できる制度」というのが、現状ないことを意味しています。
(ネット上に「不動産の放棄はできる!」と喧伝しているサイトがありましたが、中身を見てみると、結局、安値で買い取りますという内容でした。言うまでもなく、それは「売買」であって、「放棄」ではありません。)

上記テキストが勇み足の記述(というか不正確な記述)をしているということは分かったのですが、実際のところ、不動産の「放棄」というのは、法的にできないものなんでしょうか?

自宅なので書籍がなく、オンラインの資料を検索してみると、札幌学院大学法学部の田處博之教授が書かれている2つの資料がヒットしました。
「土地所有権放棄の現状と課題-原野商法の二次被害を踏まえて-」(国民生活2018年6月号)
http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201806_03.pdf
「土地所有権の放棄―所有者不明化の抑止に向けて― 」(土地総合研究2017年春号)
http://www.lij.jp/html/jli/jli_2017/2017spring_p112.pdf

同教授によると、「学説では、不動産についても一般論としては、所有権放棄できるという見解が多数」なんだそうです。

論文中には、ごく最近あった「所有権を放棄するから、国は登記名義を引き取れ」という国に対する登記引取訴訟が紹介されていました。(広島高裁松江支部平成 28 年 12 月 21 日判決)

その事案は、父親が相続した山林を原告が贈与してもらい、その 1 週間後に訴訟を起こしたというものでしたから、裁判所は、所有権の放棄は権利濫用等に当たり無効と判断したようですが、不動産の所有権放棄できる場合があることは否定していません。「不動産について所有権放棄が一般論として認められるとしても,控訴人による本件所有権放棄は権利濫用等に当たり無効」というのが裁判所の判断です。

理論的には不動産の所有権放棄は可能なのだとしても、現状の制度下では、不動産所有権の放棄(及びその登記)はほぼ不可能に近いというのが現実です(上記のような訴訟が頻発すれば、裁判所が違う判断をすることもあり得るのかもしれませんが。)。

空き家や山林など、放置された不動産の問題は、今後さらに深刻化していくものと思われ、上記新聞記事に紹介されているような制度改善は当然必要だと思いますし、今後の行方を注目していきたいと思います。

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